若手ライブでしかお笑いに触れて来なかった私にとって、“浅草”“漫才協団”“演芸”…それは今まで全く触れたことのない世界でした。
まずは“挨拶”。
これはとにかく随所に挨拶すべきタイミングがあって、その全てがある意味刺激的なものでした。
まず舞台袖から楽屋に入る。
当然そこで会う師匠方や先輩方が居ればそこでご挨拶。
加えて浅草東洋館にはいくつかの楽屋があり、自分が楽屋に入ったら直ぐにその楽屋に出向き、挨拶出来ていない師匠方にご挨拶。
あっ、そのご挨拶は「おはようございます!」という、当たり前のもの。
そして自分より後に入られる師匠方がいらっしゃれば、その師匠がいらっしゃる楽屋に出向いてご挨拶。
加えて、気付いた若手はお茶を入れて師匠に差し出す。
飲み干されたらその湯飲みを下げる。
自分の出番が近付き、身支度。
出番前になったら各楽屋に出向き、師匠、先輩、お一人ずつに「お先勉強させて頂きます」とご挨拶に回る。
そして…舞台に出て、持ち時間ネタをやる。
ここでも実は暗黙のルールがあって、前の時間が押してたら、自分たちの枠で調整して定刻に戻すのです。
例えば2分押して来たら、2分短く10分間の持ち時間であれば内容を8分にして戻る。
3分巻いて(予定より早く)出番が来たら、3分長く、10分間の持ち時間を13分やって戻る。
出番を終える。
すると直ぐに楽屋には戻らず、また改めて楽屋を回り、「お先勉強させて頂きました」とご挨拶。
挨拶を終えると自分の居た楽屋に戻り、着替えて身支度して、また帰る間際に「お先に失礼します」とご挨拶の楽屋周り。
補足ですが、師匠方が履いてらっしゃる上履きのサンダルも、乱れていたら挨拶回りの流れで履きやすい形で並べ直す。
原則は出番の30分前に楽屋入り、出番が終わったら特に用事がなければ劇場を出ますので…ものの滞在時間1時間程度で、これだけの挨拶のしきたりがありました。
ちなみに…私は今も、このルーティンを続けています。
とても残念なのは…挨拶すべき師匠方が亡くなられたりして減って来てしまっていること。
寂しいですよね。。。
私が浅草東洋館に出入りし出した頃、この挨拶のルーティンが大嫌いでした。
若手ライブで背伸びして虚勢を張っていた状態でその門を潜った当時の私にとって、“師匠にご挨拶する”という行為はその意思と真逆の方向となる云わば愚行だと思っていたのです。
タイムマシンがあるなら直ぐにその頃の時代に戻って、中身の伴わない、ポーズだけの自分をぶん殴ってやりたい。
後にその“挨拶のルーティン”の大切さに気付く訳ですが…この当時の私はよく言えば若かった、というかむしろとても恥ずかしい人間だったのです。。。
2023年07月09日